2014年3月13日木曜日

「鏡を見るアメリカ人」を見る




現在、カリフォルニア大学で「アメリカ政治入門」という授業を取っているのだが、外国の政治をその国で学ぶという経験はとてもおもしろいものだ。なんせ、アメリカ人がアメリカについて学んでいるところを盗み見できるのだから!!

こうして鏡を見るアメリカ人が見られるのは、留学生のみに与えられた最もすばらしき特権であろう。アメリカの政治学者たちがアメリカという国家をどう見て、それをどう学生に教育しているのか、僕の見てきたことをいくつかまとめておこう。


まず授業では、アメリカ政治の仕組みを解説する700ページにも及ぶ分厚い教科書と、アメリカ政治に関する様々な分野の研究をまとめた論文集を使っている。教科書は何人かの教授による共著であり、“自称”中立的なスタンスで書かれているが、論文集には様々な研究者の多様な意見が載っている。

これらの本を読んで思うことがひとつ。それは、アメリカ政治学者の「民主主義」(Democracy)と「憲法」(Constitution)に対する絶対的なプライドだ。学者たちはみんな「民主主義」と「憲法」に誇りを持っており、その誇りはアメリカ政治の基盤を成している。どんなに対立する議論があっても、それは必ず「民主主義」と「憲法」の土台の上で行われ、その土台を崩すような議論はあり得ないのだ。


それを強く表しているのが教科書だ。
教科書の第1章は、“民主主義とは何か”についてである。ここでは他の政治的イデオロギーの説明はごく僅かにし、主に民主主義とその細かいタイプについて説明している。読んでいて、「民主主義っていう前提は当たり前だよね」という空気を感じるが、アメリカ政治を教える上でそこまで他のイデオロギーに踏み込む時間はないのかもしれない。

ちなみに、アメリカでは共産主義や社会主義は罵倒の対象である。みんな特にその意味は知らないが(僕の周りの友達がおめでたいだけかもしれないが)、「そいつらは悪者でしょ」と決めつけてかかるのだ。これはそれらを馬鹿にするメディアや、民主主義のみを絶対として教える教育の影響なのだろうなと思う。民主主義がなぜましな制度なのかを考えるためには、他のイデオロギーについて知ることは不可欠だと思うのだが。。。


第2章では“憲法と連邦制(アメリカ政府が〈国の政府〉と〈各州の政府〉に別れている制度のこと)”について、アメリカがイギリスから独立する経緯からの歴史を詳細にわたって説明しながら解説している。いかにアメリカという国は素晴らしい「建国の父」たちによって建てられたか、現存する世界最古の憲法はいかにすばらしいか、民主主義を前提とした共和制という試みが世界で初めてだったこと、etc...。

読んでいて、なぜアメリカの愛国心が民主主義と憲法に強く結びついているかが、身にしみてわかってきた。なぜアメリカの政治学者たちがその二つを絶対に疑わないのか。それは、この二つがこのでっかい国を支える要石だからだ。それは制度的にも、精神的(愛国心)にもだ。だから政治家や学者の民主主義や憲法に対する認識も、日本のようにぐらぐらではないのだ。ここにきて初めて、僕は日本の「押しつけ憲法」の弱さを感じた。真の問題は憲法の内容ではなく、その外から制定された経緯なのではないか。

ついでにおもしろい話をすると、アメリカ合衆国憲法を作った建国の父たちは、当初民主主義を恐れていたらしい。もちろん逃れてきたイギリスの王制も恐れていたが、民主主義への警戒もあったのだ。古典では、民主主義は衆愚政治を招くとされており、建国の父たちもこの考え方を持っていた。だからこそ憲法を作るときには最大限の注意をし、大統領は国民の代表者による投票で決める制度(現在は形式のみ)や、議会の上院を州の代表による投票で決める仕組みを作ったのだ。


なんだかここまでの文章を読むと、アメリカ政治を少し褒めているような感じになっていることに気づいた。だが、良いところがあれば悪いところもある。アメリカの政治学者たちは、アメリカを世界の警察だと信じて疑わないらしいのだ。これは教科書にも書いてあったし、いくつかの論文にも見られた。「アメリカのスーパーパワーは他の追随を許さないもので、世界からテロの脅威を取り除くのはアメリカの務めだ」とはっきり書いてある。

僕は、いや、おそらく世界すらも、この姿勢こそがイラク戦争を生んだと思っているのだが、当のアメリカはそう思っていないらしい。どちらかというと、イラク戦争が起こったのはブッシュの責任や、制度の問題だとする見方が強いのだ。また、なぜテロが起こったのかも考えない。アメリカの政治学者たちは、鏡に映る自らの筋肉(軍事力)とその正義感に酔いしれ、”他者からの視点”というものを想像できていないのではないだろうか。それが、外国人である僕が授業を受けていて感じるイヤな雰囲気だ。




参照:教科書
"The Challenge of Democracy- american government in global politics 12th edition" (著) Kenneth Janda, Jeffrey M. Berry, Jerry Goldman

論文集
"Principles and Practice of American Politics"
(編)Kernell Smith


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