2014年2月9日日曜日

波平の声ー移ろいゆく日常

今アメリカでは時計の針が深夜2時を指している。日付が変わって日曜日になった。日本ではちょうど今頃、サザエさんが終わった頃だ。先日亡くなった磯野波平の声優・永井一郎さんが、生前収録していた最後のエピソードだった。永井さんは1969年にサザエさんの放送が始まって以来、ずっと波平の声優を演じてきた。それは毎週末僕たちを笑わせ、ときに泣かせてきた、日本を代表するお父さんの声だった。その声も今日で最後となる。

お母さんが夕飯を料理をしている間、何気なくテレビをつけ、サザエさんを特に見るともなく流す。それを見たお父さんは、明日からまた仕事か、と少し憂鬱になったり......。放送開始から45年間という長い長い年月。それは、現在日本に生きるほとんどの人の、人生の半分以上を占める時間だ。その途方も無い時間をかけて、サザエさんはゆっくりゆっくり、国民の日常生活の一部になった。そしてそんな日本の日曜日は、今日まで永久に続いていくものだと思われた。しかし、そうではなかったのだ。

慣れ親しんだ波平の声。それは、次の新しい声にバトンタッチされる。初めのうちは違和感を覚えるかもしれない。しかし、またゆっくりと時間が経っていき、人々はその声に慣れていく。その間にまた新しい命が生まれ、昔の波平の声を知らない子どもたちへと、社会もバトンタッチされていく。当たり前だが、日常はゆっくりゆっくり生まれ変わっていくのだと再認識する。波平の声がもう聞けなくなるのだという感慨は、移ろいゆく日常に押し流されていく者たちが、それに一瞬でも気づいてしまった哀れさなんだと思う。僕は日本の日常から遠く離れたアメリカで、そんなことを考えていた。

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